ss:みっつのありがとう

 

 

 

ありがとう。

ありがとう。

ありがとう。

 

いちばんめは1年間ありがとう。


にばんめはあの日メールの返事をくれてありがとう。

 

さんばんめは、

 

 

 


「えっ送れなかった?」


「うん…」

 

素っ頓狂な声を上げる親友に目じりを下げる。


何しろわたしにいつもチャンスをくれたのは彼女だったから。

 


「アドレス確認してください、って携帯会社からのメールが来ちゃった」

 


ウジウジしてた自分が悪い。


降って来たチャンスを掴めなかった自分が悪い。

 


「それいつの出来事?」


「んー…2週間前?」


「なっ…何で言ってくれなかったの!?」

 


今からもう1回メアドを聞いて…と言いながら携帯を取り出す彼女を止める。

 

「2週間」


「え?」


「で、吹っ切れた」


「……はい?」


「…それだけの想いだったんだよ」

 

 

ズズ、とシェイクの音が鳴る。


…バニラが甘すぎ。

 

 


「嘘」

 

そう言ってすぐ否定される。

 


「どれだけ好きだったか、あたしが誰よりも知ってる。もしかしたら、あんたよりも」


「、」

 


言葉に詰まる。


確かに何度もくだらない話を聞いてくれたのは彼女だった。

 


「……確かに今好きかって聞かれたら何も答えられない。けど、後悔はしてるよ」


「じゃあっ…」


「1年間、ありがとうって言えなかったのは悔しかった」

 


想いを伝えられなくても。


それでも、それでも。

 


“ありがとう”に気持ち全部込めるつもりだった。

 

 

「2年になったら、いい恋したいなー」

 

 

 

いちばんめは1年間ありがとう。


にばんめはあの日メールをくれてありがとう。


さんばんめは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みっつのありがとう

(好きでいさせてくれてありがとう)

(すっごく好きだった。……過去形だよ)

 

 

 

 


―――


初出 2011年