ss:認めたくはなかった

 

 

 

 

 

「あ!おはよ、昨日ありがとな」


「ぜーんぜん。他にも私にできることがあったら言ってよ」

 

 

朝、下駄箱まで行くとちょうど靴を履き替えていた彼が声をかけてきた。

 

出席番号が近くて仲良くなった男友達。


そう、オトコトモダチ。

 


「今度ジュースでも奢る!そんなんでごめんな」


「困ったときはお互い様だよー 課題間に合ったの?」


「おかげさまで。ギリッギリだったけどな」

 


ははっと笑う彼は数日苦しまれていた課題から解放されてすっきりした表情をしている。

 

何を隠そうその課題というのが中間テスト赤点対象者への特別課題。

 

量が尋常じゃなかったから少し手伝ってあげたのだ。

 

 

「彼女、最近一緒にいるとこ見てないけど大丈夫なのー?」


「大丈夫大丈夫。ちゃんと理解してくれてる素敵な彼女さんですから」

 


彼の彼女。

 

2クラス隣の吹奏楽部の女の子。


彼と仲良くさせてもらっている私にも優しくしてくれる可愛い子。

 

 

「そんな風に調子に乗って放置し続けてるとフラれるよ」


「おい、そんなこと言われると余計あいつに会いたくなる」


「余計って、」


「これでも会いたいの我慢してんだよー」

 

さらっとそんな恥ずかしいことを言ってのける彼に恥じらいというものは見られない。思ったことを深く考えずに口にする人だから仕方ない。

 


「学校離れてるわけじゃないんだから会いに行けばいいじゃん」


「向こうが男子にからかわれるの嫌がって学校で会ってくれなくなったんだよ。最悪」


「はい、朝からごちそうさまー 彼氏がいない私への嫌味ですかコノヤロウ」


「そういうつもりじゃないって!拗ねるなよー」

 


もちろんそんなの分かってるよ。


彼だって私が本気じゃないことを把握済み。

 


「つーかおまえは彼氏つくんねぇの?」


「そんなあっさりつくれるほど、私はモテません」


「えー俺だったらおまえのこと好きになるけどなぁ」


「っ、」

 


思わず言葉に詰まった。


こいつ、は。

 


「あ、本気にすんなよ?俺は彼女ひとすじ」


「そんなの分かってますー お世辞ありがとう」


「え、お世辞じゃなくて結構本気なんだけど」


「え、」


「え?」


「………彼女いる人がそういうことあっさり言っちゃだめだよ」


「えーでも俺は彼女と出会わなかったらおまえのこと好きになってたよ。きっと」

 

 

彼女と出会わなかったら、か。

 


「はいはい。とにかく彼女が1番なんでしょーノロケ話はお腹いっぱい。あ、ほら呼んでるよ」

 


2年の教室前廊下にて、彼が別のクラスの友達に呼ばれる。


何度か見たことがあるその友達は彼と同じバスケ部の人だ。

 


「お、本当だ」


「先に行ってんね」


「おう。後でな」

 


彼が友達の元へ向かうのを見届けてそれとは別の方向に私は歩き出す。


向かう先はもちろん教室。

 

 

なんで、朝からあんなこと言うのかなぁ……

 

天然混じってるから、いつも爆弾を落としてくれるけど、今日のは強烈だ。

 

 


“おまえのこと好きになってたよ”

 

 

そんなこと、聞きたくなかった。

 

なんで、そんなこと言ったの。

 

………なんでも何も、そんなの自分でも分かってる、分かってる。

 

 

彼にとって私は友達以上にならないからだ。

 

 


なんで、私のほうが先に出会わなかったのかなぁ……

 

彼女より先に出会ってたら、好きになってもらえたのに。

 

最初から分かってるこの恋の結末。

 


それでも諦めきれないのは、どこかで期待している自分がいるから。

 

 

彼女と別れたらいいのに、なんてよく思う。


最低だ、私。


彼女はこんな私にも優しくしてくれるのに。

 

 

あーあー……

 

 

「認めたくなかったなーあ……」

 

 

私が恋というものに無知だったら、こんな苦しい想いをしなくてすんだのに。

 

 

 

 

 

認めたくはなかった

(どうやったら諦めることができる?)

 

 

 

 

 

 

――――

お題「認めたくはなかった」
こんなぐだぐだでごめんなさい。

 

初出 2012年